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Cymruのお喋り

Cymruのお喋り

RS異聞記外伝 1

「赤き龍」伝説

ある次元で巨大な力が失われたとき
全宇宙の均衡を保つため
他次元でそれに匹敵する力を持つものが
消滅する。

火の神獣が消滅したため時空に生じた歪みは
全く別次元の大いなる力、
「ドラゴン」と呼ばれる者たちを巻き込むこととなった。

突然消えたドラゴンの王。

だが、王が死んだのではないことを
ドラゴンに仕える「護龍の民」と呼ばれる一族は知っていた。

ドラゴンの王の残留思念は
この異変の原因となる力が復活するときに
自らも復活することを約束した。

そして・・・

再生のため
この異変の原因を突き止め
解決することを「護龍の民」に命じた。

王の残留思念は幾千万の光となり
「護龍の民」一族の体内に消えた。

その光は
女たちにはドラゴンの生命力を体内に育み
愛情と知識を継承することを、

男たちには想いを形にし、
ドラゴンの力を継承することを命じた。

体内にドラゴンの力を宿した一族は
原因探求のため
あらゆる時代・次元に飛んだ。

女たちのほとんどはその力を体内に保ち
人並みはずれた治癒と浄化の能力を発揮した。

男たちのほとんどは戦闘能力のみを体内に残し
「卵」もしくは「石」の形態にドラゴンの生命力を封印
それを宝として代々継承していった。

が、「卵」もしくは「石」は奪われ、
失われることが多かった。

「護龍の民」の手を離れたそれは不完全なまま孵化し、
ドラゴンとは言い難い容姿と能力で、その命を落としていった。

この事態を解決するために
「卵」もしくは「石」は
「護龍の民」の血を引く者のみが見え
入ることが出来る場所に隠された。

孵化してしまった幼生たちは、
「護龍の民」たちの手で懸命に集められ、蘇生され、
かなりの数が再び「卵」もしくは「石」の形態に戻された。

しかし、どうしても元に戻すことが叶わなかった魂は
ひとつに凝縮され、一族の中から選ばれた乳児の体内に宿された。

「カムロ」と名づけられた男の子は、
人でありながらドラゴンの幼生となり
長い年月を生きる宿命を負うこととなる。

σ(=^‥^=)カムロだじょ♪
(=^‥^=)ノ よろろだじょ♪

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近隣の村や町から、保護を求め殺到した者たちを砦の中へ入れた際、
そのあまりの人数に一人一人の素性を確認できなかった時点で、
勝敗は決していた。

難民たちに紛れ入り込んだ間者が、影のようにうごめき
宵闇の中、内側から門を開け放った。

難攻不落と言われていた砦もこうなれば脆いもの。

外で待っていた敵が一斉になだれ込む。

すでに非戦闘員の方が多くなっていた砦はパニックとなった。

放たれた火矢は、文字通り雨のように降り注ぎ、
本来は闇の中に隠されたはずの砦を赤々と照らし始めた。

「火が、火が・・・」

「こっちはダメだ、窓から飛び降りろ!」

「押すなよ、俺が先だ!」

四方から迫りくる炎に、逃げ道を断たれた人々は、
唯一外へとつながる窓に向って殺到した。

ここは3階。

飛び降りて無事で済む保証はない。

「ええい、どけ! オレが先だ!」
剣を槍を振り回し、我先に窓へと辿り着こうとする者がいた。

「飛び降りて動けない奴の上に飛び降りるんだ、そうすりゃ助かる」
そう叫び、前にいたものを突き落としてから飛び降りる者がいた。

「落ち着いてください、こちらに集まってください」

数人が必死で呼びかけるが、振り向くものすらほとんどいない。

「あなた・・・」

「仕方ない、動ける範囲でタウンポータルを出してくれるか?」

若い剣士は天使の妻にシマーリングシールドをかける。

「はい」
天使は、なんとか場所を見つけると
古都、アリアンなどへのポータルを作り始めた。

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あまりに長く続いた戦いは
最初に雇われた時、味方同士であった者たちを
雇い主の都合で敵味方へと引き裂き、
必要のない悲しみと憎しみを次々と生み出していた。

「こんな泥沼の殺し合い、戦(いくさ)と呼べる代物じゃない。
傭兵のオレたちは生き残れば勝ちだ。
雇い主の勝敗など、こうなればどうでもいい」

吐き出すように呟く夫の言葉に頷いて
天使は黙々とポタを作っていた。

「体は大丈夫か?」

はにかんだ笑顔を浮かべ、コクンと首を縦にふる。
一瞬ポタを作ることを休めた手が
最近は傍目からもわかるほどふっくらとしてきたお腹を
愛おしげに撫でると、彼女はまたポタを作り始める。

周囲には、髪が焼けるような臭い、血の臭いが充満し、
耐え難いものとなっていた。

閃光が周囲を包んだ後、立て続けに起こった爆発の衝撃で、
建物は大きく揺れ、瓦礫が降り注ぐ。

大きな背中と太い腕を広げ、妻の上に覆いかぶさる剣士。
崩れてくる瓦礫をその身で受け止める。
全身を襲っていたであろう痛みに顔は歪んでいたが、
その眼差しは優しく妻を包んでいた。

すぐにビショに変身し、回復をする妻。

「そろそろポタを作れる場所もありませんわ。
私たちも脱出を・・・」

「ああ・・・まだ誰かいるのならこちらへ!
エバキュコルで逃げられるぞ」

すぐに5人が集まった。

「後、お1人、どなたか・・・」

人影が・・・

赤ん坊を抱いた女性が
現れた。

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赤ん坊は母の乳房に埋もれ一心に乳を吸っている。
母親はそんな我が子を見つめ微笑みながら泣いていた。

思わず顔を見合わせる剣士と天使。

PTが組める最大数は8。
赤ん坊といえど1である。

「あの・・私は結構です。
どうかこの子を・・・お願いします」

赤子はつぶらな瞳を母に向けて足をダランと伸ばしていた。
そこには死の影のかけらもない。
母の腕(かいな)に抱かれ、満ち足りた表情で母をみつめ
とろとろと眠りに落ちようとしていた。

「ギボディス、行きなさい」
剣士は妻の方を見ずに言った。

ギボディスと呼ばれた天使は肩を震わせた。

一瞬の間。

彼女は何か言おうとして飲み込んだ言葉を眼差しに込めて
夫を見つめる。

「急ぎなさい!ここも、もうもたない」

天使は天へ向かいゆっくりと腕を突き上げる。
「エバキュエイション!」

天使の姿が
消えた。

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”傭兵なんて稼業、命とるかとられるかの世界。
いつ死んじまうかわからない・・・
オレ、一人で野垂れ死ぬもんだと思ってた”

夫からの耳。

PTのリーダーは夫だった。

が、ギボディズが街へ着いた時、
PTのリーダーは違う者になっていた。

メンバーは8名。

”お前たちには申し訳ないが、
剣士のオレが最後に誰かの命を護れたことが嬉しくてならない。
今までオレがしてきたことの償いには到底ならないがな・・・
着いたか?”

”はい・・・”

こうなることはわかっていたのだ。

”コルを”

夫の声に応え
「コーリング!」

先ほどの親子を含む7名が現れた。

「ごめんなさい!」
眠ってしまった我が子を抱きしめた女性が、足元で泣き崩れた。

”PTの皆様、無事到着なさいましたわ。
あなた、いままでありがとうございました。
親も兄弟もなくし、途方に暮れていた私を妻にし、
お腹の子供という宝物まで与えてくださったあなたに感謝いたします。”

抱きあうことは叶わぬ2人は
互いの言葉を一言たりとも聞き逃すまいと、
忘れるまいと・・・

だが、残された時間はもうなかった。

ギボディスが何度耳を飛ばしても、
相手が見つからないという応え(いらえ)があるのみであった。

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ギボディスがエバキュで消えてすぐ、メンバーの1人にリーダーを渡し
剣士はPTから抜けた。

「私はこの戦いで、傭兵としての仕事とはいえ
余りにたくさんの人を殺めた・・・
ここで逃げおおせたとしても、生涯賞金首として追われる身。
でも、この2人は違う。特にこの子は・・・」

剣士は赤子の寝顔を眩しげに見つめた。

「妻にこれを届けてくれますか?」

渡された緑の袋を胸に押し頂いて頷いた女性は
PTに入ると深々とお辞儀をした。

「妻が古都に到着しました。みなさんもどうぞご無事で!」

”コルを”妻に耳をし、微笑んだ剣士が最後に叫んだ言葉は
「シマーリングシールド!」

赤ん坊に盾をまわすと大きく手を振って、PTを見送った。

その直後に起こった大爆発は、砦の残骸を
内部に残っていた人々ごと、空高く放り上げた。

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口々にお礼を述べてPTから抜けてゆく人々に
虚ろな表情で礼を返しながら、立ち尽くすギボディス。
赤ん坊を連れた女性がゆっくりと立ち上がる。

「・・・シマー」赤ん坊を護る盾を見たギボディスは、
堰を切ったように泣き始めた。

「ごめん、こんなことになるなんて・・・」
母親も涙を止めることは出来なかった。
「これを渡してくれと・・・」
我が子と同じくらいしっかり抱きかかえていた
緑の袋を差し出す。

ギボディスは震える手でそれを受け取った。

”それはなんですの?”
夫と出会って間もない頃、肌身離さず大切に持ち歩く
緑の袋について尋ねたことがあった。

”この中に「ドラゴンの素」が入っているそうだ”
夫は子供のような笑顔を浮かべギボディスの耳元で囁いた。

”まあ!随分ちっちゃなドラゴンが出てきそうですこと♪”

袋の中を覗きたいとせがむと
”オレも中が見たいんだが、この袋の口、あかないんだ”

袋を手で触ってみると、確かに何か硬いものが入っているのだが
縫ってあるわけでもないのに、袋の口は開かなかった。

”いつか、中を見てみたいものだな”
夫は袋を光に透かした。

ギボディスはその時、袋の中で何かが赤く光るのを見た。

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砦の上空には、いつのまにか
巨大なシャドウのような黒い塊がワラワラと湧き、
すでに滅びが運命(さだめ)と決した砦から立ち上る
悲鳴、怨嗟、恐怖や絶望などを喰らっては、歓喜していた。

残骸が下降し始めた時、
そこから離脱するように飛び出した一筋の赤い光が
まっすぐ古都の方角へ向かった。

ギェェ~~~エ!!!
ギャ~~~ァァア!

その光は進路にいた黒い塊を一瞬で消滅させる。

恍惚の中、ユラユラと上空に広がっていた禍々しきものたちは
声にならぬ怨嗟を振りまきながら、忌々しげにその場から消えはじめる。

それを待っていたかのように
落下している砦の残骸から這い出すように輝いたのは、
いく筋もの様々な色の光。
先に古都に向かった光を追いかけるように流れてゆく。

最初に現れた赤い光は、それ自体に意志があるかのように
ひたすらに東を目指す。

やがてそれは、
その後を追いかけるように放たれた光、
更には、どこからともなく湧きだした光と融合し、
赤い球体となっていった。

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「ふむ・・・」

ふうは思わず顔をしかめた。

そもそもは部族の長の死去による跡目争いが
骨肉の争いとなり、その動乱に乗じて他部族がその部族を襲い
襲ってきた部族を金で取り込み自陣に加えた方が
身内である弟を殺し、彼が雇っていた傭兵をもほぼ皆殺しにした。

「人の所業とは思えぬ・・・」

水晶球に映し出される光景は
時に揺らぎ、時に消え去り
世界の調和を司る役目を担うふうの目にも
その一部始終を確認することは叶わなかった。

この争いで生まれたのは憎しみと悲しみ
勝者にも敗者にも永遠に消えない心の傷を残す。

人の負の感情を己のエサとする魔の者たちが
勝敗の決した場所にハゲタカのように集まり
人々の悲しみを苦しみを愉悦の表情で喰らう姿が
水晶球に次々と現れては消える。

見たくはない。
が、そこから目を背けず見続けることが
ふうの役目。

「ん・・あれは・・・なんじゃ?」

絶望と悲嘆に満ちた敗北側の砦の残骸から飛び出した美しい光。
その髪の毛一筋ほどの淡い光に
どこにこれだけの?!と思える数の光が集まりだした。

それに共鳴する様に
ふうの首飾りのピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーが輝き始める。

「おお・・・あれはまさしく”約束された復活”の光・・・
この地に御子がご光臨になる兆し・・・」

初めてこのルビーが輝いた時の記憶が鮮明に思い出された。

そう、あれはふうがこの館の主となった日。

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ペンダントの3つの石の1つ
見事なピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーが
暖かい光で周囲を照らし始めた。

”新たな司人にご挨拶申し上げる”

太くざらついた豪放な声。

”我は水の化身にして火を操るもの
人は我を『ドラゴン』と呼ぶ”

おおばあさまから受け継いだ体から
太古よりの膨大な記憶が
ふうの中に流れ込んでいた。

”大地を流れる大河が我が姿”

その記憶の中に
この声の主の姿があった。

”必要とするものには火を与え、
命が生まれ育つことが、我の喜び”

巨大な大河に手足と羽が生えたような
真っ赤な生き物。
大きな目、
大きな口、
その口から伸びているのは
舌なのか炎なのか・・・

”今、宇宙にもたらされし破壊により
我はこの姿にあらず。
が、あらゆる命と我はつながり
やがて、元の姿となろう・・・”

巨大で勇壮な姿が砕け、
声の気配が消えた。

もう遠い昔の記憶だった。

偉大なるドラゴンの言葉に嘘偽りはないとしても
余りに長い時の流れに
この約束の日が己の代に実現することを
半ば諦めていた。

ふうの瞳が潤み、両の頬を涙が伝わり床を濡らした。

「お館さま、どうなさいましたか?!」
慌てて駆け寄る侍女頭に俯き手を振るふう。

「良き兆しを見たのじゃ、嬉しゅうて・・・」

「よろしゅうございました」
侍女頭は深くお辞儀をしてから
そっとふうの肩においた手でその背をゆっくりと撫でた。

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辺境とはいえ、長い歴史を持つ国の跡目争いに端を発した
5年にも及ぶ骨肉の争いは、裏切りと結託を重ねるうちに
双方に雇われた傭兵たちにも骨肉の争いを強いることとなっていった。

己が誰に雇われているかは守秘義務。
雇い主の都合で昨日味方であったものが今日は敵。
戦場で顔を合わせれば、それが親兄弟であろうと
敵味方に分かれて戦わなければならぬのが傭兵。

奇襲部隊を送り込んだ敵陣を率いていたのは
あろうことか子供の頃から憧れていた兄であった。

「奇襲は見事に成功にございます!」
誇らしげに帰還報告に来た者が携えていたのは兄の遺体。

"兄者が影武者に・・・では、俺たちが全滅させた親衛部隊は、
里の出身者の部隊だったというのか?!”

カラドッグは目の前が真っ暗になった。

ぶつける所のない怒りが湧きあがり、彼の理性は吹き飛んだ。
いきなり、目の前の男を一刀で葬り去り、
兄の亡骸を抱えて戦場から逃げ出した。

事情を知ったカラドッグと同じ里の者たちが彼の後を追った。

奇襲に成功し意気軒昂であった陣営は、指令系統を失い、混乱。

その情報は、奇襲の報復をと、いきりたっていた敵陣に流れた。

兄側は、カラドックたちが護っていた弟側砦近くの村や町を襲い、
砦に助けを求めた人々の中に間者を紛れ込ませ、内側から壊滅させた。

内陣奥に隠れていたこの砦の主であり雇い主であった弟は、
その場で処刑。
捕らえられた妻と子供たちも死刑となった。

こうして
5年の長きにわたり血で血を洗った争いは
膨大な憎しみと悲しみを残し、兄側の勝利で終結した。

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「すいません・・・」

その日、非戦闘員ばかりの近隣の村や町を敵が襲った。

砦は、命からがら助けを求めた人たちであふれ、
厨房はおおわらわであった。

「なんだい、あんた?・・・あら、赤ん坊」

「はい、知らない場所のせいか泣いてばかり。
他の避難した人たちの迷惑になりそうで・・・」

「ミルクは?」

「母乳がでます。で、賑やかなここなら
この子が泣いてもうるさくないかと・・・」

「ああ、構わないよ。大歓迎だ」

「赤ん坊は泣くのが仕事、たんと泣かせておやり」

「ありがとう」エレナは深く頭を下げた。

赤ん坊が泣き出すと立ち上がって
厨房内をゆっくり歩きながら子供をあやすエレナ。

料理をしていた者たちが赤ん坊に気をとられた一瞬、
鍋に白い粉を入れた。

「おっぱいをあげたいのですが・・・
あちらの隅、借りてもいいですか?」

「あっちは酒樽置き場で寒いよ。ここであげればいいのに」

「ここですと男性が・・・」

「だね。あいよ、すきに使いな」

エレナは酒樽の並ぶ場所にゆっくり近づくと
裏側に回った。

赤ん坊を床に寝かせ、あたりを窺う。

誰も自分を監視していないことを確かめ、
それまでとは全く違う素早い動きで
全ての酒樽に、先程鍋に入れたのと同じ眠り薬を混ぜた。

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半年ほど前、
すでに大きなお腹を抱えていたエレナを残し
ハリスは傭兵として戦場へ向かった。

雨アチャのエレナと支援ビショのハリス。
2人が出会ったのは戦場。
それから今まで、どんな危険な場所でも
エレナとハリスは一緒だった。

ハリスの支援とエレメに包まれるようになってから
エレナはどんな場所でも恐怖を感じることがなかった。

「今度の仕事は報酬がいい。
戻ったら傭兵稼業からおさらばして、この子と3人で静かに暮らそう」

エレナのお腹に耳をつけて
ハリスは上目遣いでそう呟き微笑んだ。

両手をお腹にあてて、頷き返したエレナにエビブレをかけ賛美し、
戸口で手を振るエレナを何度も振り返りながら旅立ったハリス。

ハリスの姿が見えなくなっても
彼のエビブレが消えても
エレナは戸口に佇み、夫を見送り続けた。

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出産予定は早春であった。

男の子なら「シオン」女の子なら「プリムローズ」と名付けようと
2人で決めていた。

生まれてきたのは元気な男の子。

早春の柔らかな日差しを浴びながら、お散歩をする母子の足元には、
やがて訪れる春本番の暖かさを知らせるように、
プリムローズが咲き誇っていた。

「シオン、お前に妹が出来たらこの花の名前をつけようね^^
お前の父さんはこの花のポタージュが好きなの」

今は母乳と少しの果汁しか口にしないこの子も、
来年の春にはヨチヨチ歩き、スープだけでなくパンやスコーン、
バラブリスも食べられるようになる。

ハリスとシオンと3人でここでピクニックをしよう。
プリムローズの葉でサラダを作り、花は米とアーモンド、
蜂蜜、サフランといっしょにすりつぶしてポタージュに・・・

そうだ、この花を摘んで、砂糖漬けにして
あの人が帰ってきたらケーキを焼いてその上に飾ろう。

右手にシオンを抱き、
左手にプリムローズの花束を持ったエレナが自宅に近づくと
戸口には何人もの人が集まっていた。

「エレナ、あんたどこにいってたの!」

隣村に住むエレナの母親が駆け寄ってきた。

「かあさん、どうしたの、そんなに血相変えて・・・」

母は胸の前で硬く握っていた両手をエレナの前に差し出した。

「タート?・・・これ、あの人の婚約指輪・・・」

エレナとて傭兵。
タートだけが届けられたという現実が、何を意味しているのかは
わかっていた。

「ハリス、死んだのね」

号泣する母の姿は肯定の返事以外の何ものでもなかった。

プリムローズの花が宙に舞った。
シオンを固く抱いたまま、エレナはその場に力なく座り
声をあげずに泣き続けた。

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ハリスが所属していたのは同じ里の出身者で組まれたPT。
そして、支援ビショが戦死したということは
その部隊は全滅したということ。

傭兵の親を子供を兄弟を親族を友を失っても
戦う術をもたぬ残された者は嘆くだけ。

が、今はエレナがいた。

彼女が放つ雨は氷の力で相手の動きを止め
炎の力で敵の体力を奪い、味方を何度も勝利へと導いた。

”あんたの亭主やあたしたちの息子らを皆殺しにしたのは
キャスガットって剣士だよ”

”お願いだエレナ、どうか敵(かたき)をとっておくれ”

エレナはシオンは預かるからという母の言葉に首を横に振り
戦死者の報告と援軍の募集に来ていた天使たちが作るポタに消えた。

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「この任務、お前こそ適任との推薦があった」

奇襲で受けた痛手はそこここに残るものの
敵陣になにやら異変ありとの情報を得て士気あがる陣。

「われわれは明日、砦の近隣の村と町を襲う。
とは申せ、その目的は住民たちを砦へ助けを求めるように仕向けること。
お前はそやつらに混じり、砦に忍び込み内側から門を開けるのだ」

ものごころついた時は、戦場にいたエレナ。
一般の人々に混じるとその佇まいは明らかに違っていた。
が、今、彼女の腕の中には首も座らぬ息子がいた。

何十人もの人々が助けを求め殺到する中、
赤子を抱いた女が、プロの戦闘員だと一瞬で見極められるものではない。

酒樽にも薬をいれるという仕事を
1分とかからず終えたエレナはそのまま授乳。

「お腹いっぱいになったかい?」

笑顔で話しかける人に笑顔をかえし
シオンにゲップをさせながら最初にいた場所まで戻る。

”第二ミッション終了。丑の刻に開門する”

PTチャで報告。PTにはシオンも入っていた。
万が一何かあれば外の天使が
コルしてくれる手はずになっていた。

「よしよし、オムツ替えましょうね。
この様子なら寝てくれます。お邪魔しました」

「またおいでよ!」

何人もの人に手を振られ、エレナは厨房を出ると、
ニヤリと笑った。

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あの日の深夜、砦の内側から味方を招き入れるところまでは
作戦通りだった。

エレナが仕込んだ眠り薬の効果はてきめんであった。

ほとんどの者が眠りこけている中、味方はすぐに砦の奥に雪崩れ込み、
この戦いにおける最大の敵、砦の主の弟を捕らえ、砦に火を放った。

が、思った以上の戦果に、
本来は誘導と移動だけの要員であったエレナのPTの天使とビショが暴走。
味方が総崩れの中でも、果敢に戦う精鋭たちの手にかかりあっけなく死亡した。

”仕方がない、このPTは解散、各自ギルド時計で帰還せよ”

「コル係なら外で待機だろうが!」
潜入工作のため、丸腰だったエレナは自分が巻き込まれぬよう
避難するのがやっとだった。

「ったく、ビショのくせにつかえない!」
そろそろおっぱいの時間の息子がまだ眠ってくれていることを確認。

耳を飛ばす。

「ハリス、悪いけど迎えに・・・」

応(いら)えがあるはずなどない。

”あたしったら・・・”
よろめきながら、近くの壁に手をつき、シオンを抱きなおす。

自分が何故、生まれたばかりの息子と死臭漂う戦場に居るのか、
そんなこと・・・
わかっている。
わかっていた・・・

こらえきれぬ涙が溢れポトポトと床に落ちる。

でも、戦場にハリスがいないなんてことなんか、なかったんだ!

範囲火力のエレナと支援ビショのハリス。

いつだって、どんな時だって、あの人と2人でなら脱出できた。
どこにいても自陣に戻れる「ギルドホールの神秘的な時計」なんてもん
持ったことがない。

味方の放った火で逃げ道はなくなっていた。
唯一の脱出口である窓に殺到する人々。
あんなところにこの子を連れて行ったら、かえって危ない。

”あたしたち、逃げられないんだ”体がゾクリと震えた。

目を覚ましたシオンが、母の気持ちを察したかのように、
大声で泣き出した。

「ほらほら、いい子だから泣かないで」
おっぱいをやる。
シオンが泣き止んだ時、微かに聞こえた声。

「・・・のならこちらへ!エバキュコルで逃げられるぞ」

エレナは機敏に反応し、一瞬で移動した。

声の主の前に出るときはわざとのろのろと動く。
おそらくこれで普通の母親が必死でかけよるくらいの速さ。

”ちっ、7人いやがる!”内心舌打ちをした。
が・・・

「あの・・私は結構です。
どうかこの子を・・・お願いします」

これは本心だった。

これであの人の所へ行ける。
また溢れ出した涙に濡れながら
微笑んでいたエレナであった。

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その日、
古都をはじめとする街町にどこからともなく
膨大な数の怪我人や病人、茫然自失としている人々が現れた。

そのあまりの数、重傷者の多さに
普段なら直接治療や救助に参加することはない
若い見習い神官たちも含め、
何かしらの治療スキルを持つあらゆる者が集められた。

「Cym、こちらにもお願い」

治療を終えた人々に温かいスープと焼きたてのパンを配るため
古都に設営されたテントの中で朝からずっと料理をしていたCymruは
憧れの先輩カリの声に粉をこねる手を休め、
エプロンで手を拭きながらテントから飛び出した。

すでに夕刻が近づいていた。

昼食も摂らず治療をしていた彼女たちは疲れきり
祈る体力すらほとんど残ってはいなかった。

「お疲れさまでございます。すぐに支度いたします(涙目)」
一目で状況を理解したCymruは瞳を潤ませると
スープとパンを食卓に並べた後、
あちらこちらからの差し入れの食材も使い
同じ修道院の5名の先輩の食事を整えた。

「そっちはどう?」

「はい、たくさんの方々がいろいろご尽力下さいますので、
何も不足はございません」
返事をしながらも手を休めることなく、慌しく走り回る。

「うん、おいしい♪ Cymの料理ははずれないね」

「ありがとうございます(感涙)
カリ様はコーヒーでよろしいですか?」

「ありがとう」

先輩たち5人の好みはわかっていた。

カリともう1人にコーヒーを
2人にミルクティーを
残りの1人にストレートティをサーブしながら
Cymruはテーブルの中央にありあわせで作ったトライフルを置いた。

「ここにある材料ではこんなデザートしか・・・
申し訳ございません(泣)」

「ほらほら、そんな顔しない!」
Cymruが大好きな笑顔で声をかけられ
(大泣)になりそうなCymruは慌てて持ち場に戻った。

途中になっていた生地を仕上げ、オーブンに入れてから
テーブルに戻った時にはもう誰もいなかった。

”何よりのご褒美・・・ありがとうございます(感涙)”

そこには見事なまでにカラッポの器とカップが
端に寄せられ置かれていた。

-----------------------------------

「あの・・・」

潤んだ瞳で振り向いたCymruの前には放心状態の女性と
彼女を庇う様に肩を抱き、もう一方の腕に赤ん坊を抱いた女性。

「まあ・・・どうぞこちらへ」

Cymruは近くに居た同級の神官見習いの少女に
器の片づけとスープを頼むと、2人に椅子をすすめた。

「お怪我はございませんか?」

「あ、それは大丈夫。私はエレナ、この人はギボディス」

「私はCymruと申します。エレナ様、ギボディス様、
こちらにおかけくださいませ」笑顔で案内する。

すぐに運ばれた温かいスープとパン。

エレナに促され、ゆっくりと座ったギボディスであったが
目の前の皿に視線を移すことはなかった。
先に手をつけることをためらって、皿とギボディスを交互に見ているエレナ。

「一口でもお召し上がり下さいませ。赤ちゃんのためにも」

エレナの腕に抱かれていた赤ん坊に微笑みかける。
たっぷりと眠ったのであろう。
こぼれるような笑顔がCymruに向けられた。

「抱っこさせていただけます?」

エレナは頷いて赤ん坊をCymruに託し
「・・・いただきます」食事に手をつけた。

---------------------------------------

重傷の者を古都に残し、
難民たちは各街町の教会や修道院に引き取られた。

エレナとギボディスは
カリやCymruたちが所属する修道院で眠りについた。

昼間の騒ぎが嘘のように静まり返った深夜、
修道院の尖塔上に、目撃した者が思わずひざまづき祈りを捧げてしまうほど
気高く美しい赤い光が輝き、建物に吸い込まれるように消えた。

光は一直線に、
ギボディスが抱きかかえ眠っていた緑の袋に飛び込む。

が・・・

余りに多く集まりすぎたのであろうか、
袋から溢れた光は
ギボディスのふっくらとしたお腹に吸い込まれていった。

予定日まで、後2ヶ月(ふたつき)はあったはずのギボディスが
翌日早朝、産気づいた。

医療、病院もそのルーツは修道院と言われている。
出産経験はなくとも助産経験のある修道女たちが
ギボディスの出産に立ち会った。

初産とは思えぬ安産で昼過ぎに生まれたのは
これも早産とは思えぬ3Kgを超える女の子であった。

明るい太陽光が差し込む病室で
赤ん坊がこの世に生れ落ちた瞬間、
ギボディスは夫の形見の袋を握り締めていた手を緩めた。

「おめでとうございます。元気な女の子ですわ」

立ち会った者達の歓喜の声と元気な産声につつまれた部屋に
虫が鳴くような微かな音が響く。

「みゅ」

それは、緑の袋の口が緩んだ瞬間、
外へ飛び出した小さな淡い赤色の勾玉が、鳴いた声であった。
それは、そのままコロコロころがり、ベットの下で止まった。

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「生まれたの?!」
廊下で待っていたエレナが、シオンを抱いて飛び込んできた。

元気よく泣いている新生児をキョトンと見ていたシオンが
突然大声で泣き始める。

「あらあら仲良しさんだこと」

産湯を浴びて綺麗なおくるみに包んでもらった
赤ん坊はギボディスのところに戻ってきた。

「おっぱいをあげてください」

疲れきった様子ではあったが、輝くような笑顔で頷き、
子供を抱くギボディス。
ゆっくりと頭をゆらした赤ん坊は母の乳房にむしゃぶりついた。

シオン君、またも右にならえ~~~

2組の母子を部屋に残し修道女たちはそれぞれの仕事に
戻っていった。

ギボディスが口にする子育ての不安に
丁寧に答えるエレナ。

間もなく、少々遅い昼食として
サンドイッチとスープ、果物を運んできた神官見習いのCymruは、
「スープが冷めてまいりましたらお申し付けください。
いつでも温めなおします」
と声をかけ深々とお辞儀をした。

”あら・・・?”頭を下げる瞬間、なにやら赤いものが
視界に入る。

2人が一斉にCymruの方を向き、礼を述べた一瞬に
赤いものは高速移動。
お盆の上のバナナを1本くすねて、再びベットの下に。
”ヒクッ!”自分を見つめるCymruの視線にそのまま固まる。

が、Cymruは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべ、
人差し指を唇にあてウインク、ひざの辺りで小さく手を振ると
ゆっくり頭を上げ、部屋を後にした。

すやすや眠ってしまった子供たちをベットに寝かせ
昼食を摂る母親たちの真下で、
赤い物体は自分の体の何倍もあるバナナを
皮ごとたいらげていた。

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「名前はどうするの?」

「男の子ならガディダック女の子ならプリムローズにしようと
夫と話しておりました」

「まあ・・・」エレナは内心驚きながら満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、あなたはプリムローズちゃんね」

「キャスガットはプリムローズのポタージュが大好きでしたの」

エレナの笑顔が消えた。

「あの剣士さん、キャスガットって名前?」

のどがからからだった。
痺れるような舌の感覚に声がかすれそうになるのを必死でこらえ、
尋ねるエレナに、頷くギボディス。

「はい、夫の名はキャスガットと申します。
あの人は、春を運んでくるのはこの花だから、
皆に春の暖かさを届けられるような女の子になるように
この花の名前をもらおうと・・・」

途中で言葉につまり、嗚咽しはじめたギボディスに
少し眠った方がよいと声をかけ、布団をかけてやるとシオンを抱き、
エレナは、部屋を後にする。

顔面蒼白でふらふらと廊下に出たエレナは
傭兵の彼女が、いつもなら気づいたはずのこと。

自分の服のポケットになにかが飛び込んだことに
全く気がつかなかった。

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”キャスガットはプリムローズのポタージュが大好きでしたの”
歌うようにそう呟いたギボディス。

己の命と引き換えに
エレナと息子の命を救ってくれた剣士の名がキャスガット!?

鬼、悪魔、非道の剣士キャスガット。
そう聞かされていた。

そいつのせいでハリスは戻ってこなかった!

でも、
愛する妻と間もなく生まれてくる子供がいるのに
あの剣士は迷うことなくエレナたちをPTに入れてくれた。
自分の命と引き換えに・・・

あたしたちの命の恩人が
夫のカタキなのか?!

あたしは敵討ちをしたのか?

考えても考えても、頭は混乱するばかり。

このもやもやした気持ちはなんなんだ?!

エレナは、何を考えれば、何をすればいいのか
何もかもわからなくなっていた。

今はただ、ここにいることが、
ギボディスの顔を見ることが耐え難かった。

そのまま、修道院の外へ駆け出す。

銀行の場所を人に聞き、預けてあった装備と金を引き出すと
エレナはアウグを逃げるように後にした。

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当面の旅費には困らないが、これから先のことを考えると
稼ぎが欲しかった。

腕っ節と度胸には自信がある。
乳飲み子を連れていても、大抵の相手には負ける気はしない。
エレナは傭兵の勘を頼りに、
狩りをしながら故郷を目指すことにした。

「・・・で、そこの丸いの!」

勾玉のような雨粒のような形の赤い物体は、
明らかにギクリとして動きを止めた。

「銀行であたしの靴の後ろ側に張り付いたまま、
付いてくるから、なにをするのかと思えば・・・」

モンスターを倒すとアイテムや金が落ちる。
とはいえ、無制限に所持できるわけではないため、
高値で売れるもの以外のアイテムは放置したまま狩る。

「いくら安物でいらないったって、
お前に喰わせるために狩りしてるんじゃないんだよ!」

その赤いのときたら、エレナが落としたドロップのうち
冠、爪、腕輪、首飾り、指輪、イヤリング、盾、ブローチ、
刺青、十字架、槍投擲機を選んで食い漁っていた。

体長は10cmくらい。
風船に大きな目が2つ、ついているような感じであるが、
何かを食べるとなると顔?が上下にパカンと開いたようにあき
ヒーターシールドやタワーシールドという
自分の体よりはるかに重く大きいものにでも果敢に食らいついて、
あっという間に平らげてしまう。

この赤いのが、実はギボディスの緑の袋から生まれたことを
知る由もないエレナは、これは最近よく見るミニペットだろうと思った。

「まあ、そのちっこい体で、そんだけでかいものを喰う根性は
嫌いじゃないけどね」

「みゆ~~ぅん♪」
火ペットもどきは食べかけのイージスを急いで飲み込むと
フワリと浮き上がり、エレナになつきに行った。

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「ベシッ!!!」エレナが手にしていた弓が振り下ろされる。
赤いのに直撃。

「きゃうぅ~~~ぅん;;」赤いのはキャンキャンと周囲をはねた。

「でもね、あんたが今、飲み込んだブツは、10万で売れるアイテムなんだよ」

「ヒクッ!」赤いのの動きが止まる。
明らかに”ヤベェ!”という表情をして、落下。

「みゆぅみゆぅみゆぅみゆぅ」今度はエレナの足元で
大きな目をうるうるとさせながら上目遣いに見つめる。

「ああ、ああ、わかった。
あたしが拾い終わってから残りもんだけ喰っていいよ」

「みゅん♪」

「ついといで、ええっと・・・名前”みゅん”でいいか?」

「みゆ~~ぅん♪」みゅんと名づけられた火ペットもどきは
エレナの肩の辺りに浮き上がると一回転してエレナの頬に
キスをした。

このみゅん、予想外にお役立ちであった。
近くにいるだけでエレナの体力と力が上がる。

戦闘中、ダメージと命中率は悲しいものがあるが、
敵を火炎で攻撃している。

ささやかではあるが、エレナに応急処置をしてくれる。

時に、火、吹きたぃぃ~~いとばかりに主張するので
試しに吹かせてみたら
線香花火?!というレベル。しかもMISSばかり。

「気持ちは嬉しいけど、無駄かな・・・(遠い目)」

とはいえ、子守のセンスはなかなかのもので
シオンにはよい遊び相手である。

更に、
言葉が話せるわけではないが、こちらの言うことを
明らかに理解しているかのように頷くみゅん。

みゅんは今のエレナには欠かせない存在となった。

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エレナが目指す里には大きな変化がおきようとしていた。

現里長が高齢を理由に引退を表明。
次期里長間違いなしと言われていたスリウェリンが戦死。

里では選挙が行なわれ
仲間とともに帰還していたスリウェリンの弟、
”迅雷瀑布のカラドック”が新しい長に選ばれた。

スリウェリンの亡骸を丁重に弔ったカラドックは、
里長に就任すると、共に里に逃げ帰った者たちを集め、
こう告げた。

金で雇われ、雇われた先が敗北すれば
能力の高いものは勝者へ雇われる。
それを断ることが出来ぬから、
我らのように親兄弟が殺しあう破目となる。
そんなことは2度としない。
里の誰にもそんなことをさせはしない。

依頼主も仕事も選ぶのは我々、
そんな里にする!
これからはこの里のため、命がけで働く。
同じ思いのものはここに誓いを・・・

その場にいた全員が、血判状に押印した。

その日から、志を同じとするものたちは
死に物狂いで働いた。

その強さから”迅雷瀑布のカラドック”
と呼ばれた男が武器を捨て、
荒地を耕し、灌漑用水を整え、家畜を育てた。

事情を知る取り巻きたちもそれに習った。

彼らにとっても間接的にとはいえ、
スリウェリンや同じ里の人々を殺してしまった事実を
償う方法はそれしかなかった。

傭兵の素質のあるものには修行をさせ、
身寄りが亡くなってしまったものたちは
自宅を開放し、衣食住の面倒を見た。

傭兵たちの稼ぎだけに頼っていた貧しい里は
見違えるように豊かな里へと変貌していった。

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故郷に戻ったエレナもその恩恵を受けることとなる。

実入りがいいとはいえ、危険も多い実戦はもうこりごりだった。

里に寄せられる様々な厄介事を片付ける仕事をこなしながら、
シオンを育てる彼女に、里は出来る限りのことをしてくれた。

たくさんの人々に支えられ、愛され、すくすくと育ったシオンは
間もなく15の誕生日を迎えようとしていた。

その日の仕事は近くの村から
最近夜になると出没するモンスターを
ねぐらごと退治して欲しいとの依頼。

里長のカラドッグは誰か補佐を連れて行くように言ったが、
エレナは首を横に振り、エレナとシオン、みゅんは里をあとにした。

里を出てから、一度も会話はなかった。

父ハリスが残した盾を持つシオンの装備は
ビショのそれではなく、剣士のもの。

夫と同じ支援ビショになって欲しかったエレナは、
よりによってハリスの敵(かたき)であるキャスガットと
同じ剣士になりたいという息子がどうしても許せない。

「みゅ、みゅ~ん」
険悪な2人の雰囲気を少しでも和らげたいと
周囲を飛び回るみゅん。

みゅんの姿も変化していた。

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あれはエレナが故郷まであと数キロという森で
野宿していた夜。

たっぷりと乳を飲み、安らかに眠る我が子を抱いたまま
焚き火の炎を見つめていたエレナ。

”やっと帰れるんだ・・・”

赤子連れで狩りをしながらの旅という過酷な日々。
それでなくともあまりにもいろいろなことが起こり過ぎ
心も体も疲れきっていた。

”明日の夜には家のベットで眠れる・・・”

故郷まであと少しということで
張りつめていた気持ちがふっと緩んだのだろうか、
普段のエレナならありえないことである
うたた寝をはじめた。

”ゅ~ん・・・”

微かに捉えた音に、はっとして目を覚ます。

”やばい!”
焚き火が消えかかっていた。

いくつもの低いうなり声が聞こえる。
周囲に立ち込める獣の気配は少なく見積もっても
10以上。

シオンは眠ってくれている。が、
授乳の際、脇に置いた弓矢を取るために動くことが
どれほど危険であるかをエレナはよく知っていた。

殺気をこめたいくつもの瞳がこちらをうかがっていた。

”えっ?!何?”

いきなり背後に立ち昇った、ただならぬ気配に振り向いたエレナは
己の目を疑った。

たかだか十数センチのみゅんが、
みるみるうちに数メートルはある
コウモリのような翼を広げる赤い生物へと姿を変えていった。

蛇のような冷たい光をたたえる大きな目をギョロリとうごめかし
カッと開いた口から真っ赤な舌が垂れ下がり
鋭い牙が見え隠れしていた。

”我を見忘れたか?!”

吐き出す息とともに響き渡る音は
耳からではなく脳に直接響いた。

周囲に立ち込めていた気配が消えた。
それどころか、森に満ちていた全ての生き物の気配が、
息を潜めるものに変わっていた。

ふと足元に目をやり、
エレナが目覚めていることを知った巨大な赤い生物は
あっという間に元の大きさに戻ると
赤い鳥のような姿で「みゅん♪」と鳴いた。

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「ちょろいもんだ・・・」

エレナの火雨で周辺を焼き尽くし、
あぶりだされてきたモンスターをシオンが片付ける。

モンスターが落とした金やアイテムはみゅんがせっせと拾い、
好みのアイテムはもぐもぐもぐ。

長年の狩りの経験で、
食べると怒られる高いアイテムをかじるなどという、
命にかかわるミスはしなくなっていたみゅんであったが・・・

「かあさん、みゅんが!」

シオンがスパイクシールドを持って走ってきた。

「ん?」

シオンは盾を差し出す。

スパイクシールドの端でみゅんが大口あけて
アグハグバタドタしている。

「何してるのかな、みゅん?」

ンガングウグゥ~と羽をばたばた。

「盾のトゲトゲが口に刺さっちゃったみたいなんだ」

「・・・どれだけ食い意地はってんだ、お前は!」
ため息をつくエレナ。

一応首をすくめ、みゅん的には小さくなってみる。

助けてはやりたいが
下手に引っ張ることも出来ず、そのまま放置。

仕事が終わると盾ごと里に連れ帰った。

「・・・いくらエレナさんの頼みでも、これはねぇ・・・」

診療所のビショたちも頭を抱えた。

いい加減アゴが疲れ、お腹が空いてきたみゅんは(涙目)

診療所長はアウグの教会いる知人のビショに耳を飛ばした。

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スパイクシールドのとげが刺さった火ペットの治療。

そんな、誰もがお手上げの事例があると
とりあえず引っ張り出されるビショがいた。

ビショ同士がもつコル連絡網が駆使され、
とりたてて特徴のない神官姿の女性が
羽が生え全身が真っ赤な
身長70cm、胴回り60cm位の
誰も見たことがない生き物と手をつないで現れた。

「わざわざご足労いただきありがとうございます」
里長であるカラドッグが直々に出迎える。

診療所長が進み出る。

「我らが里長、カラドックでございます。
カラドック様、こちらは”紅涙の女神官”Cymru様と・・・」
言葉につまる診療所長。

σ(=^‥^=)ノ カムロだじょ♪

「カ、カムロ様だそうでございます」

里長はカムロをじっと見る。

カムロはみゅんをじっと見ていた。

アグハグバタドタしていたみゅんが
カムロに気づき、動きを止めた。

(=^‥^=)ノ おひさだじょ♪

互いに見つめ合う、カムロとみゅん。

。゚( ゚^∀^゚)σ゚。ギャハハハ

カムロが突然笑い出した。

(=^‥^=)ゞ にらめっこσ(=^‥^=)負けたじょ^^;;;

(=^‥^=)σみゅん、強いじょ♪

みゅんは大口あけたまま、嬉しそうにバタバタした。

-------------------------------------

その様子を一通り観察したCymruは、頷いて微笑み
「ごきげんよう”迅雷瀑布のカラドック”様、
お目にかかれて光栄に存じます」と挨拶をした。

「これは失礼」カラドックはゆっくりと視線動かした。
「もう、とうに忘れた名前です。今では隠居の身」
口にする言葉とは裏腹に、鋭い眼光がCymruに向けられる。

Cymruは目をそらすことなく会釈してから
みゅんに近づいた。

「バナナが好きなみゅんね。お久しぶりです^^」

みゅんはうるうるとした大きな瞳で
Cymruとカムロを交互に見ている。

σ(=^‥^=)σみゅんはいっぱい混ざってるけど、
カムロと同じだじょ。

Cymruはにっこりと頷くと、カムロの頭をなでてから
みゅんの前に膝をつく。

「盾を食べている途中で刺青も食べようと、盾を横にずらして
刺青を放り込むスペースを作ったら、盾のトゲトゲが刺さった・・・
というところかしら?(涙目)」

ウガフガと頷くみゅん。

二つ名を持つアウグの神官が
妙な生き物を連れてみゅんの治療にやってきた。
という話はあっという間に広まり、里の人々が集まり始めていた。

---------------------------------------

「ごきげんよう、皆様、これからしばらくお騒がせいたしますが
どうかご容赦下さいませ」

Cymruは神官のガウンを脱いだ。

群集からざわめきがおこる。
「布の服?!」
「二つ名を持ってる割に地味な装備だよな・・・」
「なんか、弱そうってか、頼りなさそうってか・・・」

そんな声が聞こえているのかいないのか、
Cymruはカムロに何やら囁いている。

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)
カムロは大きく頷くと
σ(=^‥^=)v頑張るじょ♪

「じゃ、お願いね^^」

Cymruが賛美しはじめる。

「普通の賛美だよな・・・」
「なあ・・・」

σ(=^‥^=)いくじょ!

「皆様、お下がり下さいませ!」
Cymruはみゅんにミラーをかけた。
とほぼ同時に

o⌒◇)<炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎

悲鳴が起こるほどの風圧と熱が周囲に立ち込める。

火を吹く能力があるみゅんとて
Cymruのミラーがなければ、おそらくは灰になっていたであろう。

ミルティクから受け継いだ闇の力をも取り込んだ炎は
盾などあっという間に溶かした。

「みゅぅ~~うぅ~~ん」盾が刺さっていた部分の
怪我と火傷を丁寧に治療してからCymruは神官のガウンを
身にまとう。

「ありがとう、カムロ、とっても上手だったわ」

σ(=^‥^=)vエライじょ♪

「善と悪双方を取り込み、全てを焼き尽くす紅蓮の炎」
カラドックが進み出た。
「カムロ殿は言い伝えに聞く、ア・ドライグ・ゴッホ殿の幼生でいらっしゃるかな」

σ(=^‥^=)ノ

Cymruもにっこり微笑むと頷いた。

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すっかりよくなったみゅんは、2,3度口をパクパクし、
左右の羽を交互に見ながらバタバタするとフワリと飛び上がり、
不安げに自分を見つめているエレナとシオンのもとへ一目散。

「ありがとう、ほんと、助かったよ」エレナはみゅんの頭を撫で、
腕を前で交差し抱くと、Cymruに向かって深々とお辞儀をした。
横に並んだシオンも嬉しそうに礼。

「エレナ様、お久しぶりでございます・・・
そちらがあの時の赤ちゃんかしら?」

「ん?・・・」
エレナは目を細めてCymruをしげしげと見つめる。
「あ、あんた、あの時、食事の世話をしてくれた・・・」

「はい、その節はいたらぬことばかりで失礼いたしました(涙目)」
Cymruはエレナに負けないくらい深々と礼をした。

「Cymru様、お疲れになられましたでしょう。
あちらにお食事のご用意が整っております」

σ(=^‥^=)腹減ったじょ♪

「はいはい^^では、お言葉に甘えて・・・
お食事いただきたい人、挙手」Cymruは右手を上げながら微笑んだ。

σ(=^‥^=)ノ

元気に手を上げるカムロの肩越しで
”みゅん♪”
胸を張り、負けず劣らず元気一杯に左羽を上げるみゅん。

周囲から笑いがこぼれた。






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